踊る目覚め


4


「やえかさん、新しい話できたよー」
なるみが、陽気にノートを持ってきてくれた。

いつもの文化センターの自習室。今日はとても空いている。やえかと、白木さんが座っている席に
なるみがやってきたのと、休憩して外出中の男性2人くらいしかいない。

やえかはしらず笑顔になって、見ていいの、と、ノートを受け取った。
「うっ」
ノート6ページを使ってびっしりと書いてある文章は、修正が2重3重にしてある。
文章をまるくかこって矢印をつけ、別の段落に矢印の先を向け、文の順序を変えているが、
その矢印が交差されてたくさんある。
噴出しの記号を使って加えた文章が4つ5つあり、どこから始まってどこへ読むか読む順番がわかりにくい。

「文章を編集したんだけど、俺、校正下手なんだよね。」なるみは、笑って言った。
鉛筆は持っているが、消しゴムは持っていないらしい。

「わかんない漢字があるんだけど、これ、どう書くんだっけ」
と、白木さんにノートを見せて聞いている。白木さんは、横線で消してある文字の上に正しい文字を書き入れながら、
「清書くらいしてきなよ。それにしても、こういうのを作った直後のなるみ君は清々しい顔してる」
なるみは、言われたとおりの清々しい顔で、うなずく。

やえかは、1から何かを作るということが苦手だった。
だから、できた物を楽しむことしかできないが、なるみの態度は、いつも、やえかの想像を上回るように、実に楽しそうだった。
「そういえば、やえかさんは、いつも俺の話を笑顔で聞いてくれるんだよね」

「そうかな。」
やえかは、自覚はあったが、とぼけた。
白木さんは、やえかがなるみの話をいつも楽しみにしていることに気づいていたが、黙っていた。

「読みにくいのに、よく読めるね」
白木さんが笑いながら言った。やえかは、実に嬉しそうにノートを読んでいる。
「う、うん、なるみ君の話、けっこう好きなんだ」
なるみは思い切って言った。やえかは、なるみの話を聞いたり読んだりしている時は、いつもより素直だった。

「私も。けっこう好きな人、多いのよ。」と、白木さんは、やえかの気持ちを軽くするように答えた。
「優しくて、あったかい雰囲気がいいな。やえかさんは?」
白木さんは、さりげなく聞く。

「え、そうね、そうだ、音楽が似合うところ。ほかにもいっぱいあるけど…」
「そうか、2人は俺が好きなのか」
「違うでしょ」
やえかと白木さんは、同時に言う。

やえかは、昔のことが少しずつ癒されていくのを感じた。
なるみと出会う、数年前のことだ。



つづく