踊る目覚め


5

まだやえかが小さかった頃、近所に優しいお兄さんがいて、
よくやえかにお話を聞かせてくれた。

とても素朴で、温和でお人よしな人だった。
ある時、お話を書いてくださいと言われ、その青年は
言われるままに、たくさんのお話を書いた。

青年の素朴さは削られ、自尊心を傷つけながら書き続けた。
やえかは、本になった青年のお話はほとんど読まなかった。

生き生きした青年の心から生まれたお話を、やえかは、肌で感じ取っていた。
本に載ったものは、沖らかにそれと違っていたからだ。

青年とその作品に、だんだん疲れが見えてきた。それでも、わずかな素朴さをお話の中に残した。
このときに、無理にでもやめさせればよかったと、やえかは思う。

青年は その後、書くことも、人と会話をすることも、笑うこともできなくなった。

彼に、書かないかと言った人は、彼が役に立たないとなると、彼を酷評した。

やえかは、夢も才能も、人の欲や嫉妬によって摘み取られてしまうから、隠していたほうが良いんだと思った。
素朴でいると利用されるから、賢く立ち回らないといけない。
そのうち、何を望んでいるのかさえわからなくなった。
心の扉を閉じた日だった。



つづく