踊る目覚め



『なるみ、来週までに話と曲を送ってきてくれ。公募があったよ』
「ほんと?」
なるみの友人は、童話と童謡の公募があることを電話で教えてくれた。
「よっし、来週だな」
『ごめんな、急で…その公募を見つけたの、今日なんだ。』
「いや、一週間あれば充分」
自習室の近くのロビー。
アイスティーを飲みながら、なるみはやえかに教えてくれた。
「なるみ君、公募に作品を出すの」
「うん」
やえかは、あまり良い顔をしなかった。
「そう…。ね、どうしても今じゃなきゃ駄目?応募するのは」
なるみは、当然、喜んでくれるだろうと思っていたので、少し意外そうにやえかを見た。
「やえかさん…?」
「う、うん、」
やえかは、なるみから目をそらして話を続けた。
「なるみ君ならきっとなんらかの賞をもらえるとは思うけれど…。
もう少し後でも、そう、
もっと人間として社会勉強をして成熟してから、そういうのは、どうかな」
こういう言い方は失礼かもしれないが、今は、生まれたばかりの才能の芽を、やえかなりに
大事にしたいと思った。もっとしっかり根を張れば、大丈夫かもしれない…。

「俺は、この公募に作品を出すよ」
なるみは、きっぱりと言った。
「以前から、ずっと憧れていた企業が主催しているんだ。本になった作品の質は高いし、
社員の方も作家さんも人柄が良いんだって。友達が言ってた」

なるみからすれば、なぜやえかが、自分のプロ活動に慎重なのかわからなかった。
(まあいいや、きっと、俺が活躍すれば、いつものように応援してくれるだろう)
なるみは、そんな風に考えていた。

そこへ、白木さんがやってきた。
やえかは、浮かない顔で挨拶すると、静かに自習室へ入っていった。

「どうしたの、やえかさん」
白木さんは、ミネラルウォーターを自販機で買いながら、まだロビーでくつろいでいるなるみに聞く。

「それが、俺が公募に作品を出すとって言ったら、急に元気なくしちゃって」
「え!大賞もらえるんだ、すごいじゃない、なるみ君」
「いや、まだ、出してもいない。でも何でだろう、喜ぶと思ったんだけどな」
「やえかさんは、引きずるからね」
「どういうこと?」

白木さんは、例の青年のことを知っていた。以前、青年が創作のお仕事をしていた時に何度か話したことがあり、
今でもごくたまに会うらしかった。


つづく