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近くの雑貨屋さんで、素人の手作りの本を販売しているお店がある。
そこに、なるみが書いて、話を聞かせてくれたお話が本になっていた。

(あ、本になったんだ。)
やえかは、周りを見渡して、誰も知り合いがいないことを確認すると、
そっと、平積みになった、やさしい色のシンプルな表紙の本を手に取った。
薄くてかわいらしい本だった。名前も、「なるみ」と、後ろの見開きの部分にちゃんと書いてある。
一度話は聞いていた内容のお話だが、活字で読むと、改めて面白い。
やえかは、しらずうちに顔が笑ってしまう。心が高揚して生き生きとする。


「よう、やえかさん。」
よく聞いたことのある声がした。
お店に入ってきたなるみは、やえかに明るく声をかけ、やえかが手にとって
嬉しそうな本に目をとめた。
「あ、それ、俺の本・・・。」
やえかは、急に顔に血流が集まり、本をなるみの前にバンと出し、急いで走っていった。
「な、何なんだ。」
本を受け取ったなるみは、不思議そうに、自分の本と、やえかの走っていった方向を見た。
やえかは、本を読んでいるところを、なるみに見られたくなかった。

 −私は、嬉しそうな顔をしてなかっただろうか。

普段、やえかのことは、あまり童話を読んだりせず、
勉強ばっかりしているようになるみには映っていただろう。

なるみが見ていないところで、こっそりとなるみの本を楽しんで読むことは、
やえかにとって見つかっては恥ずかしいことだった。

なぜだろう。
なるみの童話を読んでいるときは、普段の自分とは違うような気がした。
もっと、素直で無防備な、内面から湧き出るような喜びがでてくる。

それを、童話を書いた本人に知られることが、恥ずかしい。
なるみは、別にやえかの本音をひやかすような人ではない。
あれで意外とデリカシーがあった。

それでも、人と、仕事や生活のためではない、単なる生き物としての喜びを共有することに抵抗する。
少し窮屈な性格だと我ながら思った。
こわかったのだ、人と、心から良いと思えた喜びを、わかちあった後で裏切られるのは。
心を開くというのは、長く本音を抑えてきた人間にとっては、とんでもなく勇気がいるものだった。



つづく