2 近くの雑貨屋さんで、素人の手作りの本を販売しているお店がある。 そこに、なるみが書いて、話を聞かせてくれたお話が本になっていた。 (あ、本になったんだ。) やえかは、周りを見渡して、誰も知り合いがいないことを確認すると、 そっと、平積みになった、やさしい色のシンプルな表紙の本を手に取った。 薄くてかわいらしい本だった。名前も、「なるみ」と、後ろの見開きの部分にちゃんと書いてある。 一度話は聞いていた内容のお話だが、活字で読むと、改めて面白い。 やえかは、しらずうちに顔が笑ってしまう。心が高揚して生き生きとする。 「よう、やえかさん。」 よく聞いたことのある声がした。 お店に入ってきたなるみは、やえかに明るく声をかけ、やえかが手にとって 嬉しそうな本に目をとめた。 「あ、それ、俺の本・・・。」 やえかは、急に顔に血流が集まり、本をなるみの前にバンと出し、急いで走っていった。 「な、何なんだ。」 本を受け取ったなるみは、不思議そうに、自分の本と、やえかの走っていった方向を見た。 やえかは、本を読んでいるところを、なるみに見られたくなかった。 −私は、嬉しそうな顔をしてなかっただろうか。 普段、やえかのことは、あまり童話を読んだりせず、 勉強ばっかりしているようになるみには映っていただろう。 なるみが見ていないところで、こっそりとなるみの本を楽しんで読むことは、 やえかにとって見つかっては恥ずかしいことだった。 なぜだろう。 なるみの童話を読んでいるときは、普段の自分とは違うような気がした。 もっと、素直で無防備な、内面から湧き出るような喜びがでてくる。 それを、童話を書いた本人に知られることが、恥ずかしい。 なるみは、別にやえかの本音をひやかすような人ではない。 あれで意外とデリカシーがあった。 それでも、人と、仕事や生活のためではない、単なる生き物としての喜びを共有することに抵抗する。 少し窮屈な性格だと我ながら思った。 こわかったのだ、人と、心から良いと思えた喜びを、わかちあった後で裏切られるのは。 心を開くというのは、長く本音を抑えてきた人間にとっては、とんでもなく勇気がいるものだった。 つづく