踊る目覚め



8

なるみは、夜の静かな町を歩いている。

下宿先を出て、少し歩くと、見晴らしのよい小川が流れている。
その向こうには文化センターがあった。

明日、友達が原稿を取りにきてくれる。
作品は、もうできていた。こんなもんかな、という出来である。
でも、何かが足りないような気がして、なるみは気分転換に散歩することにした。

なるみは、文化センターまで行ってみた。
「へぇ、意外と遅くまで開いているんだな。」
よく行く自習室に入り、がらんとした静かな室内のいすに座った。
窓から見える中庭には、綺麗な木々が、月夜にシルエットを作っている。


その頃、やえかはなるみに電話をかけていた。
なるみは、部屋に電話を置いていないし、携帯も持っていない。下宿先の花見さんという人の電話にかけ、なるみを呼び出してもらう。

「さあ、どこへ行ったのかしらね。よく夜に散歩してるみたいだけど、たぶんそんなに遠くは行っていないと思うわ。
文化センターあたりにいるかもしれないですね」

やえかは、おととい、なるみと話したことを訂正しようとした。


やえかだって、もし親しい人に、資格を取ることを話して
「今はやめたほうがいいんじゃない、もっと後にしなよ」
と言われたら、やる気がそがれてがっかりしてしまうだろう。

白木さんに電話で言われた、なるみ君はなるみ君、彼は彼だと。
確かにそうだと思った。彼のことは悲しいできごとだが、だからといってなるみ君の可能性を
決め付けるようなことを言ってはいけなかった。

結果が同じとは限らない、もっと可能性を信じた言葉を言うべきだった…

「そういえば、さっきもなるみ君あてに電話があったわね。どこかの会社の人みたいだったけれど、
公募に出す作品をこちらに出してもらいたい、とかなんとか」
やえかは、いやな予感がした。

「もしかして、××社の人ではないですか」
「ああ、そう、そんな風な名前でした。なるみ君を探しているというから、やっぱり文化センター
かもしれませんと、言っておいたの」

かつて、やえかの知り合いの青年の才能と心をだいなしにした人である。
きっとなるみのことを、文芸関係の仕事をするなるみの友人などに聞いたのだろう。

やえかは、お礼を言って電話を置くと、外に出て、文化センターへと車を走らせた。
星が数個見えて、三日月の月は明るい。明日も晴れだろう。

(なるみ君、お願い、締め切りに間に合って)
もし、間に合わなかったら、待遇や報酬を持ち出して、××社の人に説得されて、できた作品を渡してしまい、
そちえらの企業で書くことになってしまうかもしれない。
その代償は大きいことを知っていた。

やえかは、なるみの創造の世界が小さく暗いものになることは耐えられなかった。
きっと、なるみのお話や音楽を喜ぶひとたちも、そう思っている。

やえかは、そういった気持ちと、そうなることを否定する想い、そんな環境にはさせないという想いが
出てくる中で、文化センターの駐車場に到着した。

車から降りたとき、夜の空に、星があちこち光る。三日月がくっきりと映え、応援しているようでもあった。

なるみ君だったらここでお話や曲のひとつでも作ってしまうだろう、そう思うと少し笑って、
元気になってきた。










つづく