木香薔薇の庭
終章
さよは、アーチのある入り口で、ほのかさん達を待った。
支店長になったお祝いに、ほのかさん、しおり、いつも来ている男の子が
お昼にきてくださる。
支店は、お庭のデザインはさよに任された。
最初は、本店と同じ、木香薔薇を植えようと思った。
本店と同じようにすることが、本店の店長であるほのかさんへの敬意だとおもったからだ。
しかし、少したつと、さよは首を振った。
あの庭は、さよにとって、ほのかさんの象徴だった。
黄色のイメージの本店は、木香薔薇とともに、ほのかさんの横顔が浮かぶあの庭を、
安易に真似したくない。
さよは、白い花を何種類か集め、白を支店のイメージの色とした。
このほうが、ほのかさんも喜んでくれるだろう。
そういう人だ。
(それでも、ほのかさんが一番仕事で大事にしていることだけは、同じにしよう)
それは、ちょうどさよが仕事で表現したいことと、とてもよく似ていた。
「きれいな庭ね。さよさんらしい」
ほのかさんは、笑顔で庭を見渡した。
「気に入ってくださいましたか、よかった」
さよは、ほっとした。
「さあ、お昼にしましょう。さよさんオリジナルレシピ」
ほのかさんは、嬉しそうに、庭がよく見える白いテーブルに座った。
「ここは、ほのかさんの特等席ですよ。」
さよが言うと、ほのかさんは、
「お客様に、特別席はつくっちゃいけないわよ。みんな、特別席。」
と、笑顔になって座った。
男の子が、ここは、お母さんの仕事場から近いから、時々一緒に食べられそう、と
喜んでくれた。
(ひょっとして、ほのかさんはそのつもりでこの場所を支店にしたのかな…いや、まさか)
「私も、時々来るね。同じサービス業だから、いろいろ話が合うし」
「喜んで」さよは、しおりという友達もできて嬉しかった。
「いつも、お母様の存在に励まされています」と、さよがお辞儀をして言う。いつもより嬉しそうな男の子の
お母様は、ほのかさんよりも年上で、知的で優しそうなかただ。
「まあ、初めてお会いしたのに、こちらこそ、いつも子供がお世話になって」と、
お母様は笑顔でおっしゃる。
会ったことがなくても、励みになる人がいるものだ。
そういう関係もいいなとさよは思った。
そして、この関係、この仕事、それを運んできてくれた人に
さよは何か言いたかった。
ほのかさんは、白い庭を眺めている。
「私のお店は、お母さんのご飯と言われているけれど、ここは
仕事で頑張っている人のランチという感じね。そういう人に、来てほしいね。」
と、しおりと話している。
ありがとうござ…、と、かすかに口だけ動かした。
白い花を見ながら 気持ちがこみあげてきて、声がうまく出ない。
ほのかさんには、夜に言おう。
本音なら、ひょうひょうとしているほのかさんでも、ちゃかさないで聞いてくれるだろう。
今さよにできることは、ほのかさんから教わった、人として大切なことを
仕事で生かしていくことが、次の課題として自然にあった。
でも、それはできる。
電話が鳴る。
「ん、募集の電話?」ほのかさんが、いちはやく察して言う。
さよが受話器を取ると、
「あの、アルバイト募集の件で…」という内容だった。
「はい、それでは、お待ちしております。」
さよは電話を切ると、ほのかさんに新しい決意の目を向けた。
「ここで、優しい気持ちになれる料理を作っていきます。」
さよは、支店長の目になって、厨房へと向かった。
おわり