木香薔薇の庭


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「おはよっす」

服装のカジュアルな、親しみやすいこの男性が来た。このお店のインテリアを考えた人だ。

「おはよっす」お昼を食べている男の子が、真似をして言う。

「よう、今日はお母さん何時に帰ってくるの。」
「8時。でも、晩御飯は俺と食べるんだよ。」と、その男の子は何故か誇らしげに言う。
「それはよかったな。」
彼は笑顔になると、いつも指定席にしている場所にどっかりと座り、日替わりメニューを頼む。

「結婚式のメニューが決まったよ。少し予算オーバーだけど、この方が素敵だと思う。ご祝儀でおまけするよ」
ほのかさんが、メニューが書かれた紙を用意した。

「お、できたか。」その男性が言う。

「さよさん、この方が、今度ここで結婚される方よ。」と、その男性をさよに紹介した。

 「え!それはおめでとうございます。」さよは、あわててお辞儀した。
さよがこのレストランで働いてから、2週間が経とうとしていた。

その男性は、親しみやすい笑顔で「ありがとう」と言った。
このレストランは、、小さな庭に黄色のイメージの植物が植えてあり、建物の雰囲気も素敵なので、
少人数ならパーティーもできる。
「ここだと、安いし、近いし、料理もうまいしな。」と、その男性は、牛丼屋さんのような決め方で「休息時間」のレストランを
式場にした。
(結婚式かあ…。おめでたい席を手伝うって、いいかも。)さよは思った。



「慣れましたか」と、ほのかさんは、笑顔で聞く。
「はい、少しずつですが、ほのかさんが丁寧に指導してくださいますので、」
さよは、以前までアルバイトをしていたしおりの、感じの良い応対のしかたを、一応の手本にしていた。

ほのかさんは、それを見抜いたのか
「比べなくていいのよ。基礎を受け継ぐのは大事だけど、さよさんの仕事をしやすい行動や考え方があると、
仕事も楽しくなるんじゃないかな」
ほのかさんは要所だけ教えて、あまり、こまかいことを言わない人である。2人しかいないせいもあるけれど、
新しい仕事もどんどんさせてくれる。その分、責任も大きくなるが、
さよにとっては仕事のしやすい、自主性を重んじてくれる人だった。
「ありがとうございます」

「こんど、さよさんの歓迎会でピクニックに行きましょう」
さよは、有り難く承知した。

帰り道、さよは以前の職場での、同僚の言葉を思い出していた。

…人間、ひとりじゃ生きていけないのよ。
さよは言い返した。

でもわたしが一人の時も、誰も手を差し伸べなかったわ。1人で生きているのとおなじよ。
結局、みんな、自分に損になることはしたくないのよ。

わたしは1人でも生きていくわ。

そのときは、本当にそう思っていた。
でも、誠実な人とのやりとりは、あたたかくて、そんな言葉を言ったことさえも忘れてしまった。


  



つづく