香薔薇の庭(3)
青に、少し白を足したような色が、空一面、均一に広がっている。
空が、高い。
歓迎会で、ほのかさんのお弁当を食べている。
しおりも来てくれて、焼き菓子を作って持ってきてくれた。
さよは、紅茶をたくさん作って持ってきた。
いつも来ている男の子も来てくれたので、今日の歓迎会は遊園地となった。
「どうもありがとう」さよが言うと、
「お母さんが、人のお祝いにはなるべく出ろって」その男の子は、ほのかさんがつくったサンドイッチを食べながら言う。
「サンドイッチ、美味しいですね」さよが言う。
「ありがとう。材料は残り物だけどね」
「ほのかさん、そういうことは言わないほうがいいですよ」しおりが言う。
「あ、そうね。」
「気持ちで嬉しいですよ」
「うちのお母さんも、残り物で料理するの、得意だよ。よく、お母さん大変ねって言われるけど、
俺から見たら楽しそうだけどな」
その子はふしぎそうに、話す。男の子のお母様は、私生活でも仕事でも、なかなかハードな環境にいらっしゃる。
「お仕事好きな方だからね。前向きだし、強い方よ」
ほのかさんが、その人を思い出して言う。
「それに、自分がつらいことがあっても、子供に同じ思いをさせたくないのよ。」
さよは、子供はいなかったが、親とはそういうものだと思っていた。
「俺が同じ思いをしちゃだめなの?」その子が聞くと、
「だめってことはないけれど、そうしたら、お母さんはきっと悲しむと思うのよ。」
その子が乗り物に乗ると、さよはほのかさんに話した。
「でも仕事でそういうことって、あるでしょうね。」
「そういうこと?」
しおりが、聞き返した。
「自分が伝えたくないことを伝えてしまって、傷つけたり、いやな思いをさせてしまうことは、あると思うんです。
以前の職場はそうでした。無責任に感じられて、いやなのですが、そればかりに気をとられると
疲れてしまうんです」
「あー、ありますね」
「しおりさんみたいな、気配りの人でもあるんですね」さよが言う。
「うん、やっぱり、自分の中で気持ちを変えるしかないかもしれないですね。」
「さよさんは、不幸の手紙を、他へ渡したくないんですね」
ほのかさんが言ったので、さよは少し驚いてほのかさんの方へ顔を向けた。
そんな小さなこと気にしない、とか言われそうだったが、ほのかさんは丁寧に話を続けていた。
「そういう時は、自分が汚れていると思うときです。自分を傷つけた人も、同じように思っています。
でも、ほんとうでしょうか。その人は、さよさんをまったくだめにできるほどの人でしょうか。
人の心って、そういうものだと思いますか」
ほのかさんは、言った。
さよは、正直、心についてはよくわからない。確かに、決め付けていたところもあった気がする。
「確かに、そういう気持ちは、無意識に伝わってしまうことがあると思います…でも」
さよとしおりは、つぎの言葉を待った。
現実をしっかりと見据える綺麗な瞳で、ほのかさんは言った。
「わたしは、どんなにたくさんの不幸の手紙が来ても、受け取らないし、渡しません。」
もらわなければ、わたすものが無い。
さよは、人からの影響について、私は受け身だったのかもしれないと気づいた。
「それじゃ、無理に渡そうとする人にも、受け取りませんって伝えるんですね」
「うん、受け取らないのも優しさです」
そんなことができるだろうか。
あの男の子の親は、それができている。
ほのかさんは、高い場所にいる男の子を見上げて、嬉しそうに、
「さよさんの紅茶、美味しいよ」と、言った。
まるで不幸の手紙を受け取ることなど存在しないかのようであった。
つづく
つづく