銀杏先生(5)


5


太一は、銀杏先生の家に一番に着き、先生の妹さんにお茶をいただくと、宿題をはじめた。
一応、先生の家なので、遊んでいるより、勉強をしていた方が、かえって落ち着く。

先生は、課外授業の準備をしたり、手伝いに来た先生の妹さんと、何か話したりしている。
妹さんは、先生とは対照的な顔立ちをしていたが、笑うと、先生と同じ笑顔になった。
よく見ると、目つきと口元は似ている。

銀杏先生の部屋は、テレビもパソコンもなく「退屈でしょう」と、銀杏先生の妹さんは
言ったが、壁には大きな・・・・・とても綺麗な、繊細なタッチの、
花々が描かれた絵が、掛かってあった。
先生は、照れているのか何も言わなかったが、先生の妹さんが、
銀杏先生が描いたとこっそりと教えてくれた。

先生は、こういうことは、何故か人に教えたがらない。

ひょっとして、あのときの白い紙も、風景画を描くためのものだったのかもしれない、と太一は
思った。
その絵を見ていると、優しい手で心をなでられたようなきもちになり、そこから優しさがどんどん
ふくらんで、肩のあたりの血液が綺麗になっていくような感覚になった。

「伊藤は、誤解されやすいだろう。」
太一は、驚いてそちらを見た。
先生は、太一が安心して笑顔になれるような、あたたかな雰囲気を出してこちらに笑顔を向けている。
それ以上、何も言わなかった。

しばらくして、ほかの生徒がぞろぞろとやってきた。

「今日は、子供のおやつについてです。」と、銀杏先生はボードに「子供の間食とその役割」と、
意外と上手な文字を書いた。

「先生の好きなおやつって何ですか。」と、前に座っている女子が聞く。
先生は、うーん、好きなものはいっぱいあるけど、と悩んでから、
「やっぱりホットケーキ!」と、ボードに「ホットケーキ」と書いているので、妹さんは吹き出している。
「小学校低学年までに食べたおやつが印象深いですね。
おやつは結構、覚えているんですよ。みなさんは、どんなおやつを食べたか覚えていますか。」

妹さんは、あとでみんなに、子供に出すのに適したおやつの一例、として食べてもらうためのお菓子を
作るため、台所に立った。

材料を冷蔵庫に入れようとしたら、中には調味料が数個と梅干しか入っていない。
「あの人、普段いったいどういう食生活なのかしら・・・」と、先生によく似た口元で笑って、
昔、兄が教えてくれた童謡を口ずさみながら、材料の下ごしらえをはじめた。




つづく