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太一は、少しずつ積極的に、何かを楽しむようになってきた。
「最近、生き生きしてるわね。あの先生に出会えて良かったわね。」
母親も、喜んでくれている。
先生の家にも、お客さんは多かった。
生徒がよく遊びにきていて、太一に冷たい例の2人も来ることがあった。
(先生の良さがわかるくらいだから、案外、良い奴かもしれない)
と、太一は、思い直していた。
「今、課外授業を自宅でされているようですが、よかったら放課後の学校の教室を
お使いください。」
と、校長先生に言われて、銀杏先生はとても喜んだ。
「男子も一緒に教室で勉強できるぞ。校長先生って良い人だな。」
と、喜んでいる。太一や他の生徒は、別に先生の家でも良かったが、
先生が嬉しそうなので、
一緒に「良かったですね。」「先生の熱意が通じたんですね。」と、称えている。
先生の家で授業を受けることをよく思わない保護者に対して、
校長先生は、それなら授業に一緒に
参加されてみてはいかがですか、と保護者にお話した。
「あの先生は、保護者の方も安心できる、良い先生ですよ。生徒が将来、どんな家庭生活だとしても、
保育の心を知ることは、人として幸せなことだと思います。」
と、おっしゃった。
銀杏先生の授業をご覧になった校長先生は、
ご自分の小さかった頃 …今より自然が多い風景、畑で食べた野菜、
家族や、近所の人たちと話した、温かい時間の中で過ごした、大切な時を思い出された。
そして、新学期から、男子も選択科目に保育を追加しましょう、と、優しいお顔で決意された。
8
「あいつ、最近生意気だな。」
「調子に乗ってるよな、大した事ないくせに。」
以前、ガラスを割った犯人を太一のせいにしたクラスの2人は、銀杏先生と親しくなり、
友達が増えてきた太一が気に入らなかった。
2人は、伊藤をまた悪者にしようと考え、放課後、太一と友達になりはじめた男子たちに、
太一のことを悪く解釈して伝えながら一緒に帰った。
桧(ひのき)くんだけは、携帯できる音楽に夢中になって、ろくに聞いていない。
「おい、桧。聞いてんのかよ。」例の2人のうち、1人がそれに気づいて言う。
「ああ、わりー、で。何?」と、桧くんは、イヤホンをはずして明るく言ったが、
2人の言葉を聞き流していた。
早く終わんねえかな、と、校庭の外からも見える、先生が植えた花を眺めている。
甘沢さんは、放課後の帰り道で、一緒に課外授業を受けている太一の顔を思い出した。
太一についての噂は信じていなかったが、大きくため息をついた。
甘沢さんから見た太一は、内気で、謙虚で、小さな優しさにも気づける人だった。
そして、自分の家に近いところに植えられている、大きな銀杏の木を見上げながら、
(銀杏先生は、信じてくれるかな・・)と、思った。
つづく