心の図書館( 1 ) 「私の辞書に不可能という文字はない。」という、ナポレオンの誤釈があるが、それなら 人の心の図書館もあるかもしれない。 「期間限定で、心の図書館が開館されます。その人の心に想うことが、書籍となって閲覧できます。 場所は・・・・。」という案内がポストに入っていた。 開催日に、俺は、彼女の図書館へ行ってみることにした。 図書館に入るには、 1.ある一定の条件を満たしている(その人によって違う) 2.その図書館の心の主が、信頼している人である 3.心の主の選択により、会員証がなく名乗るだけでも入れる場合がある ことを条件に、会員証をもらって入れる。 ちなみに、俺は3(顔パス)だ。 ここに来たのは、彼女と喧嘩したからだった。 館内は綺麗で明るく、司書は女性が1人のみだった。 閲覧者はちらほらとちらばり、人数は多くなく、静かだった。 女性が多く、品のありそうな年上の人や、博識で優しそうな感じの人や 落ち着いた真面目そうな女性がほとんどだ。 男性は、いても、年の離れた上か下で、同年代くらいの若い男性はほとんどみあたらない。 (何ていうか、あいつらしいな。) 飲み物の注文を聞かれたので、ダージリンティーをたのんだ。 (コーヒーねえのか、このメニューは・・・。まあ別に、紅茶でもいいけど、全部無料だしな) 俺は、「人間関係」の区分のところで「仲直り」の本があったので、さっそく手にとって開いてみた。 中には、白いページの中央に 素直になること 言い訳をしないこと と、あった。 (それだけかよ・・・) 深いため息をついて、本を書棚にもどした。 向こうでは、「仕事」の区分で真剣に本を読んでいる、真面目そうな女性がいた。 「趣味」の区分でもクスクスと笑っている、彼女と似たタイプの女性、 「思いやり」のコーナーでは、子供たちが本を開いて楽しそうに読んでいる。 「俺は・・・何を読めばいいんだろう。」 そのとき、向こうから 「すみません、アッサムティーと紅茶のシフォンケーキをください。」 と、どこかで聞いた声がした。 テーブルいっぱいに数冊の本を広げて、空いたお皿を片付けてもらっているのは、 彼女の親友だった。 (あの人も来てたのか・・・。) 俺の方が先に気づいたが、その人は俺に気がつくと、笑顔で手を振ってくれた。 「顔パスで入れたでしょう。私もそうよ。」 と、彼女は美味しそうにシフォンケーキを食べている。すっかり自分の家のようにくつろいでいる。 「最近、元気なかったから、ちょっと寄ってみようと思ったの。でも、つい習慣で、 趣味とファッションの本ばっかり見ちゃう。」 あははと彼女は笑った。 (まあ、こういう性格だから、彼女もつきあいやすいのかもな) 「そうだ、私の本もあるのよ」と、彼女の親友は「人物」の区分へ行って、自分の名前が書いてある、 綺麗な表紙の本を取り出した。 そこには、友達がどんなことをしてくれたか、どんな存在かが書かれている。 つづく